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【広島県府中市】ものづくりの町 “備後府中”

オザワ スタッフ:オザワ

木工、繊維、金属、機械など様々な分野の“ものづくり”が盛んに行われてきた広島県府中市。中でも家具づくりは有名で、日本の6大家具産地の一つに数えられるほど。今回は、約300年前から行われているという、府中の家具づくりについてお話しましょう。

家具づくりの始まりは江戸時代!?

家具づくりの始まりは江戸時代!?

備後府中は、山陰の石見銀山と山陽をつなぐ石州街道沿いにあり、一級河川・芦田川にも面しているため、古くから物流の要衝として栄えました。特に、備後地域の山々で採れた良質な桐を、川や街道を使って街へと運ぶための集散地となっていたそうです。

そんな木材との関わりが深い府中で家具づくりが始まったのは、今から300年ほど前の宝永年間(1704年〜1710年)。備後有麿村の内山円三が、大阪でタンスの製法を習得し、帰郷後に着手したのが始まりだと言われています。

開始当時はタンスや棚よりも、長持や建具などの木工製品を中心に製造が行われていたそうです。大正時代に入ると第一次世界大戦による好景気で家具の需要が高まったことから、家具職人の数が増加して一大産地となりました。

“婚礼家具セット”の大ヒット

家具づくりの始まりは江戸時代!?

実は昔の家具づくりは、家具のごとに別の職人が担当していました。和家具(和ダンス)や洋服ダンス、棚(本棚や下駄箱)など、家具によって用いる素材や工法が異なるため、それぞれ専門の工房で製造されていたそうです。




しかし、第二次世界大戦後に事業者が助け合うことで組繊化を図る動きが全国的に高まり、府中の家具職人の間でも組合が設立されました。その組合によって家具の見本市や技術コンクールなどが開催されるようになると、家具の種類の垣根を越えた職人同士がグループになって出品用の新製品を開発するようになりました。




そんなグループの一つが考えたのが、新婚生活に必要な家具をトータルデザインした“婚礼家具セット”。和ダンスと洋服ダンス、整理ダンスを合わせた高価なセットを制作しました。当時、戦後の経済成長に合わせて高級志向が高まっていたこともあり、この商品は大ヒット! 府中の同業者たちもこぞって製造するようになりました。

さらに、昭和40年代後半には戦後のベビーブームで産まれた団塊の世代が一斉に結婚適齢期を迎えたことで、婚礼家具セットは爆発的に売れました。当時の嫁入り道具には高価で華やかな品が好まれていたため、高品質で、美しい木目が特徴の府中の高級家具は、全国各地から求められたそうです。こうして府中は日本の6大家具産地の一つとして数えられるまでに発展しました。

伝統の技法 “蟻組み(ありぐみ)”

家具づくりの始まりは江戸時代!?

府中の家具は、婚礼家具として長く大事に使えるように、強度を高める技巧が随所に施されています。その代表的な技巧が、“蟻組み”と呼ばれる釘を使わず板を結合させる方法です。

凹凸を刻んだ木材を直角に組むことで、結合部の強度を上げています。組み上げた際の凹凸模様が蟻の頭に似ていることから、蟻組みと呼ばれており、主に引き出しの内側など、負荷がかかる部分に用いられています。

受け継がれる“ものづくり”のバトン

家具づくりの始まりは江戸時代!?

府中では現在も、蟻組みなどの伝統的な技法を守りながら、今の人々の暮らしに合った、機能的でデザイン性の高い家具が作られています。




さらに、若い世代に豊かな自然と、ものづくりの歴史や文化を伝える活動も盛んです。




市内には木工のワークショップが楽しめる児童館「こどもの国ポムポム」という「木育」の推進拠点が作られているほか、地元の高校の授業では、インテリアの制作を体験する授業なども取り入れられています。




その他、最近ではご当地グルメも新たな魅力として注目されています。最も有名なのは、“府中焼き”。豚ばら肉を使う一般的な広島焼きとは違い、ミンチ肉を使っているのが特徴です。
木工や鉄鋼などの製造業で働く人が多い府中では、昔から外食産業も盛んでした。中でも野菜がたっぷり摂れて、テイクアウトもできるお好み焼きは、職人やその家族に愛されてきたそうです。
最近では、東京にも「備後府中焼き・広島県府中市アンテナショップNEKI(ネキ)」がオープンするなど、県外でも人気が出てきているのだそう…。興味のある人はぜひ味わってみてくださいね。




まとめ

今回は、広島県府中市の家具づくりの歴史と、街の魅力を紹介しました。伝統的な技術を守りながら、家具づくりが受け継がれていることはもちろん、ものづくりの精神は教育や食など、新たな分野にも影響しています。まさに、“ものづくり”のバトンが街全体に渡っているようですね。興味のある方は、府中の自然や府中家具の歴史を感じに遊びにきてください。